【書評:53冊目】新・生産性立国論(デービッド・アトキンソン)

目次

はじめに

今回は、デービッド・アトキンソンさんの著書『新・生産性立国論』を紹介します。

この本はまさに、日本経済を理解する上での教科書的な一冊でした。

著者であるデービッド・アトキンソンさんのプロフィールです。

<著者のプロフィール>

デービッド・アトキンソン(David Atkinson)

小西美術工藝社代表取締役社長。三田証券社外取締役。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社に入社、2011年に同社会長兼社長に就任。日本の伝統文化を守りつつ、旧習の縮図である伝統文化財をめぐる行政や業界への提言を続ける。2015年から対外経済政策研究委員、2016年から明日の日本を支える観光ビジョン構想会議委員、2017年から日本政府観光局特別顧問などを務める。2016年に財界「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『国宝消滅』『デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論』『世界一訪れたい日本のつくりかた』(いづれも東洋経済新報者)、『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』(講談社+α新書)など著書多数。

僕は、YouTubeチャンネル『Pivot』でこの本を知りました。

【アトキンソンの日本経済予測:前編】三流先進国になった日本/2025年から日本経済は縮小する/増税地獄が始まる/賃上げのための8つの提言/政府にできることは少ない/雇用の7割占める中小企業がカギ
【アトキンソンの日本経済予測:後編】全国一律最低賃金を導入せよ/非正規社員改革のデメリット/男女の賃金ギャップが生まれる理由/大企業の女性の給与が低すぎる/インバウンドは大チャンス/今後は富裕層が中心

この本は、経済について理解を深めたい方ニュースをよく見る方におすすめです。

ニュースを見るときに手元に置いておくのが良いでしょう。

それでは、以下のポイントに分けて紹介していきます。

  • 日本が経済成長するために歩むべき道
  • 生産性とは
  • 3つの改革ポイント
  • 国がとるべき3つの政策

※本の要約ではなく、僕が吸収したことのアウトプットです。多少内容が異なっている部分や僕の意見が混ざっています。記事の削除を希望される著作権者の方は、お問い合わせフォームよりお知らせください。即刻、削除いたします。

日本が経済成長するために歩むべき道

経済成長の必要性

突然ですが、みなさんは「経済成長」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

僕はニュースでよく耳にします。

では、「経済成長」とはどんな意味なのでしょうか。

それは、国全体で見た時の付加価値の総量を増やすことです。

経済学の言葉に言い換えると、「GDP(国内総生産)」ということができます。

付加価値の総量を増やさなくてはいけない理由がいくつかあります。

一つに、超高齢化社会によって国が負担する医療費が増えることが挙げられます。

経済規模(GDP)が減少していく中で、国の負担する医療費が増加すると、若い世代への負担が大きくなるのです。

もう一つは、国の借金です。

これについては様々な議論が展開されています。

「日本には資産がたくさんあるから大丈夫」という意見がありますが、著者によるとこの意見は議論するに値しないそうです。

なぜなら、貯金がある人がたくさん借金できるかというとそうでもないからです。

借金をたくさんすれば、いずれ貯金はなくなります。

そこで、よくみられるのがGDPに対して借金がいくらあるのかという点です。

言い換えれば、収入に対してどれぐらい借金があるのかと言えます。

この項目でも、日本は世界でトップレベルです。

経済成長を成し遂げ、経済規模(GDP)を大きくしていかなければ、借金で首が回らなくなってしまいます。

日本の現状

しかし、経済成長はとても難しいことです。

アトキンソンさん曰く、経済成長には二つの要素があるそうです。

  1. 人口増加
  2. 生産性向上

しかし、皆さんも知っての通り、日本の人口は激減しています。

よって、生産性を向上させることこそが、経済成長のカギとなるのです。

移民をたくさん受け入れればいい?

人口減少の中、解決策としてよく言われるのが移民の受け入れです。

国立安全保障・人口問題研究所の発表している推計によると、20015年と比較して2060年には生産年齢人口が3263万5000人も減少するそうです。

この減少分を移民の受け入れでカバーすると、3263万5000人もの外国人の方を受け入れることになります。

もちろん、将来的に高齢者の数は増加しますから、現在の生産年齢人口と高齢者の人口比をそのまま当てはめて考えると、3419万6000人もの移民が必要になります。

つまり、5人に2人が外国人になるのです。

この状況を多くの人が受け入れられるのでしょうか。

高齢者が定年後も働けばいい?

移民の受け入れ以外に方法があるとすれば、定年後の高齢者の方にも働いてもらうことです。

もちろん、テクノロジーの発達によって高齢者も働くことが可能になるでしょう。

しかし、若い人と同じ生産性を出すことは絶対にできません。

そんなことを強いる社会はとても恐ろしいです。

また、現在の535兆円のGDPを維持しようとすると、生産年齢人口一人あたりのGDPを1.74倍にする必要があります。

1日10時間働いている人は、17時間働く必要があるのです。

とても現実的ではありません。

これらの理由から、日本が経済成長をする方法として、生産性を高める以外ないのです。

生産性とは

定義

この本には、生産性を高めることの必要性が随所に書かれています。

では、「生産性」とはどのような意味なのでしょうか。

それは、一人あたりのGDPのことです。

生産性(Productivity) = 一人あたりのGDP

GDPは国内総生産と呼ばれています。

GDP(国内総生産) = 一定期間内に国内で生み出された付加価値の総額

付加価値 = 労働者の給料 + 企業の利益 + 政府などが受け取る税金 + お金を貸した人が受け取る利息

よくある誤解

生産性の話をするときに、よく誤解されることが「利益」との混同だそうです。

著者は「生産性を高めよう」と言っていますが、「利益を出せ」と言っているわけではありません。

この本を読んだ人の中には、「俺たちは一生懸命働いているのに給料上がらないんだよ」と思っている人もいるでしょう。

その通りです。

日本の多くの企業はこれまで、企業の利益を高めるために労働者の給料を減らしてきました。

つまり、付加価値の中身を入れ替えてきただけなのです。

人件費と設備投資をケチればイノベーションは生まれません。

付加価値が最大化されていないのです。

付加価値の中みを入れ替えるのではなく、付加価値全体を高めていく経営が大事なのです。

窓際族の責任?

これは、僕も衝撃でした。

僕は以前から、日本の生産性が低い理由の一つに、窓際族(Windows2000と言われる、約年収2000万円をもらいながら仕事をしていない人)の存在があると考えていました。

しかし、実際はあまり関係がないそうです。

なぜなら、生産性は以下の公式で求められるからです。

生産性(一人あたりのGDP) = GDP(付加価値の総額) ÷ 人口

窓際族がその会社にいてもいなくても、人口の数は変わりません。

問題は、分子(付加価値)が少ないことです。

付加価値を増加させること(=生産性を高めること)が、必要なのです。

3つの改革ポイント

現状、日本はGDPの大きさでいうと世界第3位です(1位:アメリカ、2位:中国、3位:日本、2023年現在)。

しかし、生産性ランキングでは、OECD加盟国の35ヵ国中、27位です。

この生産性の低さの原因はなんでしょうか。

本書で紹介されているポイント3つを紹介します。

「高品質・低価格」という妄想

「高品質なものを低価格で売ることが日本の美徳とされている」と考えている人はいるでしょうか。

確かに、経済学の教科書には価格を下げることは良い戦略だそうです。

しかし、ここには罠があります。

それは、人口が増えている社会でのみ成立するという点です。

人口が増えている社会では、価格を下げることによって、それ以上の需要を喚起することができるのです。

かつて高度経済成長期のように人口が増加の一途を辿っていたときはよかったのでしょう。

しかし、今の日本で、低価格でサービスを提供することは非常によろしくありません。

また、「高品質なものを低価格で」と叫んでいるものの中には、高品質でないものもあります。

これを著者は「高品質妄想商品」とよんでいます。

高品質妄想商品の特徴6

  1. そもそも需要が減っているもの
  2. 誰も求めていないのにやっているもの
  3. 適正な価格にするとやらなくていいと言われるもの
  4. 供給側が勝手に価値あるものと勘違いしているもの
  5. プロダクトアウト(供給側の押し付け)の商品
  6. 低価格にすることによって、クレームから逃げているもの

僕は、某焼肉店でアルバイトをしています。

その例を用いて考えると、2番の例が思いつきました。

僕の働いているお店のマニュアルには、お客様に「お肉を焼きましょうか」と声掛けをすることが書かれています。

しかし、実際に必要なサービスなのでしょうか。

ただでさえ人手が足りないのに、そんなサービスをしている暇はありません。

加えて、そんなお節介を望んでいる人が大勢いるとは思えません。

そんなサービスをしても、しなくても給料は変わりません。

まさに、需要を把握していないサービスと言えます。

必要なのは「高品質・低価格」ではなく、「高品質・相応価格」なのだそうです。

女性の活躍が少ない

女性の活躍を考える上では、2つの側面に注目しなければなりません。

労働参加率と同一労働比率です。

つまり、どれだけ女性が仕事をしているかと、どれほど男性と同程度の給料をもらっているかという視点です。

なんと、同一労働をしている国ほど生産性が高いそうです(相関係数0.77)。

最近では、女性の働き方も少しずつ変わってきたように感じます。

しかし、世界に比べるとまだまだです。

要因として、以下の3つが本書では書かれていました。

  1. 国民の意識の問題
  2. 経営者に対するプレッシャーの問題
  3. 政策の問題

女性の活躍を促進する立場である政府がまず、公務員から変えていかなければダメでしょう。

お手本をみしてもらわなければ、国民の多くが本腰を入れて変わるとは思えないそうです。

また、海外の企業では、株主などから生産性を上げるようプレッシャーがかけられるそうです。

そうすることで、配当が増え、株主の利益も増えるからです。

プレッシャーをかけられた企業は生産性を上げるために必死になります。

生産性を上げる最も大きなカギは、女性の活用です。

女性は今まで、コピーを取る仕事などをしていました。

しかし、テクノロジーの発達によって、女性は他の生産活動に従事することができるようになったのです。

つまり、株主などから経営者に対してかけられるプレッシャによって、女性活用が進んだと言えます。

日本でも、経営者は女性を活用していかなければなりません。

最後に政策の問題です。

著者は、今ある3つの制度を廃止すべきと主張します。

それは、

  • 配偶者控除
  • 第3号被保険者制度
  • 遺族年金制度

です。

これらの制度は、子供を産む際の女性を支えるために作られました。

しかし、今の時代、結婚しても子供を産まない家庭が増え、離婚の数も増えました。

制度を変える必要があるのです。

必要なのは、子供を出産する際に女性を支える制度です。

理想としては、子供の数に応じて優遇措置を手厚くするといった制度が必要だと言います。

最近、元大阪府知事の橋下徹さんが似たような発言をしていました。

橋下徹 さんのポスト

奇跡的に「無能」な日本の経営者

生産性が向上しないことの責任は経営者にもあるそうです。

先ほども紹介した、女性の活躍が進まないことも一つの理由です。

また、日本の労働者の質は先進国の中でもトップレベルなのに、生産性が先進国の中で最低レベルなのは大問題です。

おそらく、人材配置と労働者の使い方を間違えているのでしょう。

さらに、労働者の平均給与を下げたことも経営者の大きな過ちです。

ここ最近の流れをざっくり整理すると以下のようになります。

  1. 人口が減り、需要が不足
  2. 需要を喚起するために、価格を下げる
  3. しかし、人口が減っているので需要は喚起されない
  4. 価格を下げた分だけ、平均給与を下げる
  5. 所得が減るから需要がさらに減る。税収も減る。
  6. 税収は減るが、社会保障費は増える
  7. 政府は、公共事業などの設備投資を減らす。さらに、需要が減る。
  8. 経営者はさらに価格を下げる

まさに、負のスパイラルです。

こうして、「失われた25年間」と呼ばれるデフレ時代が到来したのです。

利益を上げるために、価格を下げることは誰でもできます。

それでは、付加価値が増えません。

付加価値が上がるからこそ、価格を下げることができ、労働者の給料を上げることができるのです。

国がとるべき3つの政策

ここまで、生産性が低い理由を考えてきました。

ここからは、著者が提案する国がとるべき3つの政策を紹介します。

企業数の削減

これから大きく人口が減少する日本で、企業の数も減ることが予測されます。

そんな中、政府がやってはいけないことは、無理して企業を守ることです。

生産性の低い企業が淘汰されていくのに、補助金を出したりして無理に存続させることで、生産性の低い企業が増えてしまいます。

少し、恐ろしいように聞こえますが、企業の統廃合が日本の生産性向上には不可欠です。

実際、一企業あたりの人数が減っていくと、生産性が悪化するそうです。

効率よく資源を集中させることで、企業は高い生産性を発揮することができます。

上場企業であれば、日本年金機構が株式を保有している企業に対して、生産性向上目標を設定し、達成できなかった企業の社長を交代させるという方法を使えるそうです。

問題は、日本の9割以上を占める中小企業です。

最低賃金の段階的な引き上げ

そこで、一つの方法としてあげられるのが、最低賃金の引き上げです。

そうすることで、中小企業に生産性を高めるようにプレッシャーがかけられます。

生産性を高めなければ、企業が立ち行かなくなってしまうからです。

また、最低賃金と生産性には強い相関が認められます(相関係数0.84(アメリカを除く))。

ドイツやフランス、イギリスを参考にすると、目指すべき最低賃金は、政府の目指す経済成長率を設定してGDPを算出し、一人あたりのGDPの50%を年間の平均労働時間で割ることにより計算できます。

すると、2020年の理想的な最低賃金は1225円だそうです。

就職をしておらず、呑気な大学生活を送っている僕が言うのは生意気ですが、最低賃金をあげてくださると、とても嬉しいです。

女性の活躍

これまで見てきたように、今のGDPを維持するために移民を受け入れることは現実的ではないし、長時間労働もできません。

よって、女性の活躍を促進するなど、生産性を高める必要があるのです。

おわりに

この本に書かれている内容には、少し棘があったように感じます。

ただ、それもアトキンソンさんの戦略なのかもしれません。

とても刺激的な内容ですが、わかりやすくまとまっています。

この本を読むことによって、日本の抱える問題点と改善策がわかります。

「日本型資本主義」といった屁理屈で本質的な問題から目を背けるのではなく、課題をしっかりと見つめ、経済合理性を追求していく必要があるのです。

それでは、今日も一日がんばりましょう。

【著作権者(著者、訳者、出版社)の方へ】

当記事では、本が好きという方に対して面白い本を紹介することを目的としています。

書籍上の表現をそのまま使うのではなく、自分の言葉で描き直すように心がけています。

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