はじめに
今回は、メタバースの世界で生活するバーチャル美少女ねむさんの著書『メタバース進化論』を紹介します。
<著者のプロフィール>
バーチャル美少女ねむ
メタバース原住民にしてメタバース文化バンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、自筆小説『仮想美少女シンギュラリティ』はAmazon売れ筋ランキング「小説・文芸」部門1位を達成。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞など掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
僕は前回、『世界2.0』というメタバースに関する本を紹介しました。
その本を読んで、メタバースについてもっと詳しく学びたいと思ったので、この本を読んでみました。
僕は現実世界でしか生活したことのないので、この本を見た時に「怪しい本かな?」と思ってしまいました。
しかし、実際に読んでみると内容がぎっしりと詰まっているまさに教科書的な一冊でした。
この本を一冊読むだけで、メタバースの定義や本質、メタバースを支える技術やその課題を知ることができます。
さらに、メタバースを体現している現存のサービス「ソーシャルVR」について、サービスごとの特徴を知ることもできます。
これらの内容が、”データ”を元に開設されているのがこの『メタバース進化論』の最大の特徴です。
この本は、メタバースについての現状を知りたい方や、理解を深めたい方におすすめです。
それでは、以下の内容に分けて紹介していきます。
- メタバーストは
- ソーシャルVR
- メタバースを支えている技術
- メタバースがもたらす社会への影響
※本の要約ではなく、僕が吸収したことのアウトプットです。多少内容が異なっている部分や僕の意見が混ざっています。記事の削除を希望される著作権者の方は、お問い合わせフォームよりお知らせください。即刻、削除いたします。
メタバースとは
メタバースの語源などは、前回の記事でも紹介させていただいたので割愛させていただきます。
定義
現在、メタバースの統一された定義は存在していないそうです。
まさに現在、整備がされてきている段階だと著者はいいます。
そこで、本書で著者がメタバーストと定義するための7つの要素を紹介します。
以下の7つです。
- 空間性
- 自己同一性
- 大規模同時接続性
- 創造性
- 経済性
- アクセス性
- 没入性
②の自己同一性とは、唯一無二の存在としてのアバターをデザインできることを指します。
④ の創造性は、マインクラフトというゲームをイメージしていただくとわかりやすいです。
つまり、自由に世界をつくっていけいるということです。
⑤の経済性とは、現実世界でさまざまな商品やサービスをやり取りしているように、メタバース内でも経済活動をできるようなことを指します。
⑦の没入性は、VRゴーグルなどを使用してメタバース世界で充実感を味わえるかどうかを指しています。
メタバースではないもの
よって、以上の要素を満たさないものはメタバースということはできません。
例えば、SNSです。
これは①番の空間性を満たしていないのです。
また、オンラインゲームも創造性や自己同一性、経済性、没入性を満たしてるとは言えません。
ここで、議論が分かれるのがもう一つの要素である⑧オープン性 です。
現在のSNSなどのように、企業から提供されているプラットフォーム上のみで活動が可能な「クローズドメタバース」。
色々なサービスで互換性があり、どのサービスも一つのアバターで活動できる「オープンメタバース」。
メタバースはこれら、二つに分けて考えることができます。
昨今、GAFAと呼ばれる企業が躍進を続けています。
これらの企業は、中央集権的にユーザーのデータを管理するプラットフォームを提供しています。
Facebookやamazonなどが良い例でしょう。
そんな中、メタバースという仮想空間が特定の企業に依存してしまうのは非常にリスクが高いと著者は主張します。
なぜなら、仮想世界とはいえ、自分の生活が一つの企業の判断に強く影響されるからです。
そこで、個人情報などを特定の企業に預けることのないWeb3という概念が応用できるのではないかと注目を集めています。
ソーシャルVR
現在、メタバースの要素を最低限満たしているサービスが多数展開されています。
本書では、著者が「ソーシャルVR国勢調査2021」題して大規模なアンケート調査を行い、その結果をもとにメタバースの現状を解説されています。
調査の結果から利用者の多い以下の4つのサービスが紹介されていました。
- VRChat
- Neos VR
- cluster
- バーチャルキャスト
さらに、昨年話題となったMeta(旧Facebook)がサービスを提供する「Horizon Worlds」があります。
現在「Horizon Worlds」はメタバースの7つの要素を満たしているとはいえません。
しかし、多大な資金と人材を持っている企業です。
そのため、今後の動向についてしっかり注視していく必要があります。
ここでは、4つのソーシャルVRの特徴について簡単に紹介します。
VRChat
VRChatは、コミュニケーション重視の仮想空間です。
また、基本的には自由度が高く、創造性にも富んだものであるといえます。
課題としては、アバターとワールド以外のアイテムが存在しないことがあります。
さらに、大規模同時接続性、自己同一性、創造性、経済性が十分とはいえない状況です。
こちらで、はじめ方がわかりやすく解説されています。
https://rental.kikito.docomo.ne.jp/portal/articles/4206/
Neos VR
Neos VRの最大の特徴はクリエイティブ性です。
クリエイターはかなり創造力を発揮できます。
著者は、このサービスを利用してミュージックビデオを作成したそうです。
このソーシャルVRの理念としては、現実世界を超えた世界を創ろうとしていることがみえます。
例としては、重力の切り替えなどです。
現在は制限されてしまっていますが、経済的なやりとりも実装されていました。
課題点は、アクセス性や大規模同時接続性などです。
https://store.steampowered.com/app/740250/Neos_VR/?l=japanese
こちらで、はじめ方がわかりやすく解説されています。
cluster
clusterはイベントの開催がメインのソーシャルVRです。
後で紹介しますが、アバターに関してVRMという企画を採用しているため、自己同一性に優れています。
課題点は、経済性が制限されていることやソーシャル的な機能が少ないことです。
こちらで、はじめ方がわかりやすく解説されています。
バーチャルキャスト
バーチャルキャストは、配信に特化したソーシャルVRです。
凸という他の配信者のところに乱入できる機能があります。
経済的なやりとりができて、アバターの表現力が高いところが特徴です。
課題としては、大規模同時接続性やアクセス性が挙げられます。
https://virtualcast.jp/wiki/virtualcast/guide/beginner
メタバースを支えている技術
人類は様々な知恵を絞り、今日までテクノロジーを発展させてきました。
著者曰く、「これまで発展してきた技術は全てメタバースのため」だそうです。
つまり、メタバースは様々な技術を取り込んで成立しているのでしょう。
では、どんな技術が使われているのでしょうか。
メタバースを支えている3つの柱は以下の技術です。
- VRゴーグル
- トラッキング技術
- アバター技術
VRゴーグル
VRゴーグルをかぶることによって、仮想世界に没入することができます。
現時点では、VRゴーグルの普及はまだまだ足りていません。
前回紹介した『世界2.0』にはその理由として、人々にゴーグルをかぶる習慣がないことが挙げられていました。
しかし、VRゴーグルの普及とメタバースの拡大は、切っても切れない関係です。
メタバースの拡大とともにVRゴーグルも普及するでしょう。
そして、VRゴーグルが普及するとともにメタバースが拡大するはずです。
VRゴーグルの主な性能については以下の通りです。
解像度:4Kが主流であり、高価なものだと5K対応のものもある
視野角:110°から120°が一般的
リフレッシュレート:90Hzが標準
解像度については、人間の目で判断できる限界が32K出そうなので、まだまだ伸び代が期待できそうです。
しかし、解像度を上げるとコンピュータにかかる負荷も大きくなってしまうので、解像度だけを上げていくことはできません。
視野角については、大きくするほどハードがでかくなってしまうという課題がありあます。
リフレッシュレートにはより高い水準が期待されます。
なぜなら、VR酔いという現象を引き起こしてしまうからです。
これに関して、僕は大学の授業で論文を読みました。
<参考文献>
藤木卓・市村幸子・寺嶋浩介・小清水貴子, 2012, VRコンテンツの精度が現実感と良いに与える影響, 日本教育工学論文誌, 36, 73-76
また、3DoFと6DoFの違いやPCVRとスタンドアローンVRの違いについて紹介します。
前後、左右、傾きを自由に操作できるもの。角度を自由に変えられる。
前後、左右、傾きに加えて、前後、左右、上下に自由に移動できるもの。角度と場所を自由に操作できる。
演算処理をパソコンで行う。VRゴーグルはディスプレイのような役割を果たす。
演算処理をVRゴーグル内で行うもの。
ちなにみ、「Meta」から発売されている「Meta Quest2」は、6DoFでスタンドアローンVRです。
PCVRとしても利用かのだそうです。
トラッキング技術
トラッキング技術とは、物理世界での体の動きをリアルタイムで仮想空間に反映させる技術です。
アウトサイドイン方式とインサイドアウト方式があります。
部屋などにセンサーを設置して、VRゴーグルの位置を把握するもの。
VRゴーグル自体にセンサーがついていて、外の状況を認識することによって位置関係を把握するもの。
また、トラッキング技術には、フルトラと呼ばれるものや顔トラと呼ばれるものがあります。
フルトラとは、トラッカーと呼ばれるセンサーを頭、腰、両手首、両足首につけるトラッキングのことだそうです。
体の動きを反映させることができます。
たまたま見つけたのですが、こちらの動画で佐渡島さんがつけているものだと思います。
顔トラとは、フェイシャルトラッキングの略です。
物理世界の表情を、仮想空間に反映することができます。
リベラルアーツ大学の両学長が生配信の時に、使っている技術だと思われます。
アバター技術
アバターについては、コストが高くなってしまったり、設定の大変さがありました。
さらに、サービスごとにアバターが異なってしまうなどの問題もありました。
しかし、VRMという統一規格や「VRoid Studio」といったアバターを簡単に製作できるツールが登場します。
これらによって、メタバースにおいて非常に重要な役割をはたすアバターがより使いやすいものになったそうです。
メタバースがもたらす社会への影響
メタバースが社会に与える影響は主に3つあるそうです。
- アイデンティティの革命
- コミュニケーションの革命
- 経済の革命
この本の特徴はデータに基づいているところなので、少しだけ数字を使いながら紹介します。
アイデンティティの革命
これまで僕たちは、名前や容姿、声などは先天的に手に入れたものを自分のものとして受けいらなければなりませんでした。
名前は、親がつけてくれます。
姿や声は手術をしない限り、変えることはできません。
そんな中、メタバースの登場により、自分の名前や姿、声をデザインできるようになったのです。
つまり、「なりたい自分になれる権利」を手に入れたのです。
驚くことに、ソーシャルVRの世界では、物理性別に関わらず役80%の人が女性を選択していたそうです。
これについては、Kawaii文化が関係していると著者は分析しています。
コミュニケーションの革命
著者の行った調査によると、ソーシャルVRを使っている方の76%が、現実世界よりメタバースの世界の方が距離感が近くなると感じているそうです。
理由としては、ビジネス目的ではなくコミュニケーション目的でサービスを利用している方が多いこと。
さらに、アバターなどのフィルター的要因が考えられます。
かわいい姿をデザインすることで、絡みやすくなっているのでしょう。
非言語コミュニケーションの重要性は、『アウトプット大全』にもありました。
また、コミュニケーションに関して、僕が特に驚いたのが「恋愛」と「セックス」についてです。
メタバースで恋をしたことのある人は40%ほどいるそうです。
ここで重要なのは、物理的性別は重要ではないと考えている方が75%もいるということでしょう。
これはあくまでVRChat利用者における割合ですが、とても参考になるデータです。
さらに、「セックス」についてもバーチャルセックスというものが行われているそうです。
メタバースとは、仮想空間におけるゲームではありません。
現実世界とは異なる生活環境なのです。
経済の革命
そもそも、経済活動とは人々が価値を交換し合う活動のことです。
お金とはその手段に過ぎません。
では、経済について考えていきます。
経済においては2つの側面から見ることができます。
個人にスポットライトを当てた「ミクロ」の視点と、全体にスポットライトを当てた「マクロ」の視点です。
「ミクロ」と視点から見ると、分人経済というものがあります。
これまでは、個人が経済活動における最小単位でした。
しかし、これからは1人の個人が複数の人格を使い分ける分人経済がやってくるそうです。
その状況では、人々のクリエイター化が加速します。
特に、アバターの製作や売買が活発になるそうです。
考えてみると、僕もインターネット上でラモスという人格を使い、ブログ活動をしていました。
イメージとしては、近いはずです。
「マクロ」の視点から見ると、超空間経済というものがあります。
これまで、地球上には限られた資源しかありませんでした。
しかし、メタバースにおいては世界をデザインすることができます。
資源の制約がないのです。
そのため、このメタバースの流行に乗っかってメタバース上の土地を購入している人もいますが、そもそも土地の所有という概念があるかすら不明です。
著者は「個人で世界を創る人が現れると絶大なインパクトが生じる」といっています。
まさに、『世界2.0』にあった1人のクリエイターが世界を創る日が来るかもしれません。
いや、既にきている可能性もあります。
おわりに
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
昨今「メタバース」という言葉がバズっています。
そのため、かなり誇張して語られたり、現状と異なるように語られたりもしています。
NFTと結びつけて論じられることもあります。
しかし、本書を読むことで、現状を知ることができます。
この記事をきっかけに、メタバースに興味を持ってくださると幸いです。
【著作権者(著者、訳者、出版社)の方へ】
当記事では、本が好きという方に対して面白い本を紹介することを目的としています。
書籍上の表現をそのまま使うのではなく、自分の言葉で描き直すように心がけています。
また、本に対してネガティブな印象を与えないことはもちろん、ポジティブな印象を与えられるように記事を執筆しています。
しかし、万が一行き届かない点があり、記事の削除を望む所有者様がいましたら、お手数ですが、
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