はじめに
今回は、『新・生産性立国論』でおなじみデービッド・アトキンソンさんの著書『給料の上げ方』を紹介します。
<著者のプロフィール>
デービッド・アトキンソン(David Atkinson)
小西美術工藝社社長
1965年イギリス生まれ。日本在住31年(2020年現在)。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。
1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問、2020年から政府の「成長戦略会議」委員などを歴任。
『日本人の勝算』『デービッド・アトキンソ 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『新・生産性立国論』(いずれも東洋経済新報社)など著書多数。2016年に『財界』「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。
在任期間は384日と少なかったものの、かず多くの功績を残した伝説の首相、菅義偉さん。
その菅内閣の中枢でさまざまな政策立案に関わってきた著者だからこそわかる視点で「給料の上げ方」を教えてくれます。
この本は、給料を上げたい方、転職を考えている方におすすめです。
それでは、以下の内容に分けて本の内容をまとめ、最後に感想を述べたいと思います。
- なぜ、日本人の給料は低いのか
- やばい未来
- 理想の給料と給料の上げ方
- ついていくべき社長
- 働く会社の選び方
- おまけ
- 感想
※本の要約ではなく、僕が吸収したことのアウトプットです。多少内容が異なっている部分や僕の意見が混ざっています。記事の削除を希望される著作権者の方は、お問い合わせフォームよりお知らせください。即刻、削除いたします。
なぜ、日本人の給料は低いのか
皆さんも知っての通り、日本の平均賃金は1990年代からほとんど上がっていません。
なぜなのでしょうか。
ちなみに、僕は今年(2024年)の4月から働き始めたのですが、手取りは20万円です。
ここは注意!統計的トリック
平均賃金の統計データや賃金上昇率の統計データを見る際は、以下の2つの点を意識する必要があります。
- 高齢者と若者の労働参加率が上がったこと
- 女性の労働参加率が上がったこと
高齢者と若者の賃金は基本的に低いです。
高校生や大学生でアルバイトをしている人の給料は、会社で正社員として働いている人の給料に敵いません。
また、日本女性の賃金水準は世界と比べると、かなり低くなっています。
よって、共働き世帯の増加や働ける年齢の引き上げによって労働参加率が上がっていることは、平均賃金を押し下げる方向に力が作用しています。
僕個人としては、労働参加率が上がること自体は悪いことではありませんが、そのことによって平均賃金を押し下げてしまう賃金の低さに問題があると思います。
結論
日本人の給料が、何十年も横ばいに推移してしまったのはなぜでしょうか。
それは、生産性が低いから。
これが、主な要因です。
まず、給料がどのようにきまるのか整理しましょう。
給料 = 付加価値 × 労働分配率
付加価値とは、ものを仕入れて、加工して、売る時に発生する差額です。
労働分配率とは、企業が付加価値のうち、どれくらいを給料として従業員に支払ったのかの割合です。
また、付加価値を人数で割ったものを「労働生産性」と言います。
よって、給料を高める方法は2つになります。
- 付加価値を高める
- 労働分配率を高める
労働生産性を高め、付加価値を向上させる。
そのためには、イノベーションが不可欠になります。
よって、私たちがやることは2つ。
自分の労働生産性をたかめ、会社に貢献する。
「給料を上げてください」と交渉する。
この2つです。
「どうしたら給料を上げてくれるか」や「そのためには、どんな仕事をしなければならないのか」について話し合う必要もあります。
やばい未来
手取りが減るからくり
今後、日本で働く人の手取りは大きく減少するでしょう。
なぜなら、少子高齢化に伴い、働く世代の負担が増加するからです。
国民負担率 = ( 税金 + 社会保障費 ) ÷ 所得
国民負担率が上がることで、手取りが減ってしまうのです。
しかし、この事実は誰を責めても解決しません。
だからこそ、頑張って働いて給料を上げないといけないと著者は主張するのです。
人口減少の影響
人口減少によって生じる影響はそれだけではありません。
本書で挙げられていた物をメモしておきます。
- 消費者が減る
- 高齢者が増える=低所得者が増える
- 企業の過当競争が起こる
- 経済の中枢から、エネルギーが低下する
- 「移転的政府支出」が増え、「生産的政府支出」が減る
- インフラを維持するコストが増大し、固定費が上がる
②:低所得者が増えるということは、消費量が減ることにつながります。
⑤:社会保障費などが増加し、政府が未来に向けた投資を減らさなくてはならなくなります。
理想の給料と給料の上げ方
給料を増加させなければ、たいへんなことは分かりました。
では、いくら給料を増加させればよいのでしょうか。
理想の給料
アトキンソンさんは、毎年4.5%+インフレ率の賃上げを主張しています。
定期昇給分(年功序列で上がるやつ): 2.8%
ベースアップ分(最低賃金の上昇など): 1.4%
そもそも、年功序列の風習が強い日本では、年を重ねるごとに給料が少しずつ上がっていくようになっています。
これが、定期昇給です。
しかし、注意点があります。
あなたの給料が上がっても、年配のだれかの給料が下がっているので、全体として見ると会社の負担は変わっていません。
ベースアップとは、全体としての底上げです。
最低賃金を比較すると分かりやすくなります。
自分が貰っていた最低賃金と、最近入社してくる子の最低賃金を比較すれば、どれほどベースアップしているかが分かります。
なぜ、定期昇給が2.8%なのか
これは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとにしています。
日本人の平均給料は52歳でピークを迎え、その間の給料の引き上げ幅は平均2.8%なのです。
なぜ、ベースアップが1.4%なのか
これは、いまの労働生産性を、人口が減る2060年も維持するためにどのくらい生産性を高めないといけないかを基準にしています。
今のGDPは約550兆円で、生産年齢人口は7416万人です。
よって、一人当たりの労働生産性は742万円になります。
2060年も550兆円のGDPを維持しようとするとどうなるでしょうか。
生産年齢人口は4418万人と予想されています。
すると、一人当たりの労働生産性は1258万円になります。
およそ、労働生産性を年率1.4%ずつ上げていかなければなりません。
労働分配率が一定だとすると、労働生産性が上がるとともに、給料も上がらないといけませんから、1.4%の賃金アップが主張できるのです。
給料の上げ方
給料の上げ方は、以下の4つです。
- 海外に移住する
- 給料交渉する
- 転職する
- 起業する
①:これは、僕個人的には好きではありません。
税金から逃げないで、ちゃんと収めろやと思ってしまいます。
ただし、高い給料をもらうために、海外に行くのは一つの手段です。もちろん、多くの人ができることではありません。
②:よって、これが一番現実的です。
ダメであれば、③④という手段を選んでいくことになります。
政府に頼るのはよくない
著者であるアトキンソンさんは、菅政権の成長戦略会議の委員に選ばれ、さまざまな政策提言を行なってきました。
そこで、以下のように感じたそうです。
- 既得権益者の力が強く、物事を変えるのに大きな労力がかかる
- 政府が政策を決定しても、民間企業を動かす力は弱い
「え? 政府の力強いだろ」と思った方もいるでしょう。
「小泉内閣の政策で、非正規雇用が増大したじゃないか!!」
たしかに、そうです。
しかし、政府が「非正規雇用を増やしてください」と言ったわけではありません。
各企業の経営者が非正規雇用を増やしたのです。
給料についても同じです。
政府が「給料を上げてください」と言っても、経営者が上げようとしなければ上がりません。
経営者次第なのです。
だからこそ、話し合い、交渉する必要があるのです。
ついていくべき社長
では、どんな社長についていくべきなのでしょうか。
まずは、残念な社長から紹介します。
見限るべき社長
- 売上を増やそうとしない
- 生産性について理解していない
- 単価を下げようとする
①:売上を増やさなければ、先ほど紹介した1.4%のベースアップができません。
②:これが厄介です。
先ほども紹介しましたが、物を仕入れて加工して売った加工費が付加価値となります。
その付加価値から、給料や税金、設備投資や不動産料などのコストを払って残ったものが利益です。
コストを削減しても利益が増えるだけで、付加価値は増えません。
労働生産性の式
労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働者数
から、労働者の数を減らそうとする人もいますが、最悪です。
『日本企業の勝算』でも紹介しましたが、ただでさえ日本企業の平均従業員数は世界で低い方です。
これ以上人を減らしたら、会社が成り立たなくなる場合がほとんどでしょう。
③:これは、著者曰く「従業員の給料を犠牲にして会社が生き残るためだけの戦略」だそうです。
つまり、そんな会社に未来はありません。
ついていくべき社長
見限るべき社長の逆を考えれば、ついていくべき社長の姿がわかります。
- イノベーションと需要発掘を重視する
- 10年先からいまの戦略を立てる
- 輸出を重視する
- 「正しい調査」をする
- 高齢者マーケットを攻める
疲れたので、詳細の説明は省略します。
気になる方は、本を買ってく見てください。
働く会社の選び方
この本では、「イノベーション」というワードがよく登場します。
新しいアイデアとその実践のこと
テクノロジー分野のイノベーションを例に考えてみましょう。
たとえば、A社でものすごい技術力があったとします。
しかし、その技術を普及させることができませんでした。
この場合は、イノベーションとは言えません。
重要なのは、小さなイノベーションを繰り返すことだそうです。
自分の会社で何をしたら良いのかは自分で考えてください。
会社を見る指標
とはいえ、イノベーションを起こせる会社か見分けるために参考になる指標はあります。
- 研究開発費
- 設備投資費
- 人材投資費
選ぶ基準
働く会社を選ぶ際は、以下の基準が参考になります。
- 業界の生産性
- 会社の規模
- 規模の成長性
- 労働分配率
①:生産性が低いということは、その業界や個々の企業に余力がないというこを意味します。
②:会社の規模が大きければ大きいほど生産性が高くなります。
よって、給与が高くなる傾向があるそうです。
著者としては、従業員が100人〜300人ほどの中堅企業をおすすめしていました。
③:大事なのは、適切なタイミングで適切な規模に会社が成長することです。
④:中小企業の労働分配率が大企業に比べて高い場合がありますが、注意が必要です。
なぜなら、役員報酬も労働分配率に含まれるからです。
ただ単に役員報酬が高いだけで、従業員には大企業とさほど変わらない給料を渡しているケースがあります。
そう考えると、給与面でキーエンスは最強だなと思いました。
おまけ
「よいものを安く」はダメ
これは、アトキンソンさんが強く主張されていることです。
詳しくは、以下の書籍をご覧ください。
大事なのは、「付加価値の高いものをより高く」です。
一方、日本で多くみられるのは「安いものを価格以上に丁寧に」です。
価格に転嫁されなければ、生産性はあがりません。
しかし、価格に転嫁させるためには、消費者が価格に見合ったものであると判断しなければなりません。
消費者がいらないものを、押し付けても価格を上げることはできないのです。
僕は、タイでトゥクトゥクに乗った時にそのことを強く感じました。
ある運転手は、夜の遅い時間を考慮してホテルの手配までしてくれました。
ちょうど求めていたことだったので、より多くチップを渡す気持ちになれました。
俗流評論家が跋扈(ばっこ)している
テレビやSNSでは、俗流評論家が大量発生しています。
「日本経済の低迷を招いた要因」としてよく取り上げられる仮説は以下の通りです。
- 消費税の引き上げ
- デフレ
- 新自由主義の影響
- グローバリズム
- 四半期決算の導入
- もの申す株主の影響
- 日本型資本主義の崩壊
- 政府が公共工事などを減らして、緊縮財政を進めている効果
僕は、本書『給料の上げ方』を読んで、これらの仮説を検証する時に大事なポイントがわかりました。
- 相関関係と因果関係をしっかり分けて考える
- 世界の国々(グローバルスタンダート)と比較する
- 言葉が何をさし示しているのか整理する
- データを確認する
以上です。
感想
この本を読んで、プロ野球選手が契約更改のときによくする「保留」に対して印象が良くなりました。
なんなら、みんなするべきだと思ったほどです。
僕も、必死に働いて会社に貢献し、給料交渉できる材料を獲得したいと思います。。
また、僕の母親は先日転職しました。
まさに、この本の思考だったのだと思います。
まずは、自分の給料が上がらないのか交渉する。
だめなら、転職先を探す。
それでは、行ってらっしゃい。
おわりに
長い記事を読んでくださり、ありがとうございます。
今年2本目の記事という、非常に少ないペースで記事を投稿していますが、今後ともよろしくお願いいたします。
(僕のこの記事がおそらく一番生産性低いと思います。誰にも読まれてないので…)
【著作権者(著者、訳者、出版社)の方へ】
当記事では、本が好きという方に対して面白い本を紹介することを目的としています。
書籍上の表現をそのまま使うのではなく、自分の言葉で描き直すように心がけています。
また、本に対してネガティブな印象を与えないことはもちろん、ポジティブな印象を与えられるように記事を執筆しています。
しかし、万が一行き届かない点があり、記事の削除を望む所有者様がいましたら、お手数ですが、
・Twitter DM:
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all.roads.lead.to.rome.shin@gmail.com
までご連絡いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします。
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