【書評:55冊目】キーエンス解剖(西岡杏)

目次

はじめに

今回紹介するのは西岡杏(にしおかあんぬ)さんの著書『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム』です。

<著者のプロフィール>

西岡 杏(にしおか あんぬ)

日経ビジネス記者
1991年、山形県酒田市生まれ。2013年に慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。大阪経済部を経て企業報道部へ。電機や機械、素材などの製造業のほか、医療やエネルギー、不動産、ホテルなどの分野を担当してきた。21年4月から日経ビジネス記者。電機・IT・通信を中心に取材する。

僕は以前、デービッド・アトキンソンさんの著書『新・生産性立国論』という本を紹介しました。

そこでは、経済成長をするために2つのことが必要だということを学びました。

  • 人口増加
  • 生産性向上

人口減少が進んでいる日本では、②を伸ばしていくしかありません。

今回はまさに、この生産性向上を体現している企業を紹介します。

それが、キーエンスです。

高い生産性を叩き出し、日本経済復活を牽引しています。

本書を読むことで、どうしたら自分自身の生産性を高めることができるのかを学ぶことができます。

ちなみに、この本の著者はキーエンスの社員ではありません。

株式会社日経BPの社員であり、『日経ビジネス』というメディアの記者をしている西岡さんが著者です。

内からではなく、外からキーエンスという会社を解剖しているのがこの本の特徴です。

  • キーエンスの特徴
  • 営業部隊の特徴
  • 商品部隊の特徴
  • 高い生産性を可能にする社内制度
  • 補足

※本の要約ではなく、僕が吸収したことのアウトプットです。多少内容が異なっている部分や僕の意見が混ざっています。記事の削除を希望される著作権者の方は、お問い合わせフォームよりお知らせください。即刻、削除いたします。

キーエンスの特徴

キーエンスは、工場用センサーなどを扱う会社(メーカー)です。

数字で見る

各種数字を見ていきましょう。

平均年収

キーエンス: 2183万円

三菱商事: 1559万円

ソフトバンクグループ: 1322万円

ソニーグループ: 1085万円

野村ホールディングス: 1441万円

東京エレクトロン: 1285万円

トヨタ自動車: 857万円

※2022年3月期の有価証券報告書に記載された従業員の平均年間給与

圧倒的に違うことが見てわかります。

時価総額

1位:トヨタ自動車 

 33兆1684億円

2位:ソニーグループ

 14兆5151億円

3位:キーエンス

 14兆4782億円

4位:NTT

 14兆498億円

5位:ソフトバンクグループ

 10兆4101億円

6位:三菱UFJ

 9兆9867億円

7位:KDDI

 9兆4964億円

8位:第一三共

 8兆8824億円

9位:ファーストリテイリング

 8兆4933億円

10位:任天堂 

 7兆6701億円

※2022年11月28日終値時点

売上高営業利益率

キーエンス: 55.4%

オムロン: 11.7%

ファナック: 25.0%

製造業平均: 5.2%

※2022年3月期。製造業平均は2021年度、出所は法人企業統計調査

自己資本比率

キーエンス: 93.5%

オムロン: 45.7%

ファナック:  86.1%

製造業平均 49.4%

※2022年3月期。製造業平均は2021年度、出所は法人企業統計調査

どの項目でも圧倒的な数字を残していることがわかります。

キーワードで見る

次に、本書の中に登場するキーワードで見ていきましょう。

  • 直接営業
  • 当日出荷
  • フラットな組織
  • 接待なし
  • ロープレ
  • 外出報告書
  • 電話件数
  • ハッピーコール
  • 時間チャージ
  • 脱属人化

キーエンスは圧倒的な数字を残しているため、僕はキーエンスを泥臭い営業を行うブラック企業なのかと考えていました。

しかし、この本を読むことで120度ぐらい考えが覆りました。

実は、緻密なデータ分析を行って施策を打つ合理的な企業だったのです。

日本の生産性(一人あたりのGDP)を向上させるために、見習うべきことがたくさんありました。

ちなみに、企業のコンセプトは「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」だそうです。

日本経済復興の鍵が隠されている、そんなふうに感じました。

僕が特に印象に残った部分を紹介します。

営業部隊の特徴

直販モデル

第一の特徴はまさに、直販モデルである点です。

「BtoC」と言われる一般消費者向けの商品を扱う企業では取り入れているところもあるでしょう。

例えば、米テスラなどが有名です。

販売代理店を介さず、顧客に対して直接販売を行なっています。

そうすることで、販売代理店にマージン(手数料)を払う必要がなく、利益を減らさずにすみます。

しかし、「BtoB」と言われる対企業・法人向けに商品を販売している企業や取り扱う商品点数が多い企業では、直販モデルを採用することは難しいと言われています。

そこで、営業担当者の力が必要になるのです。

ロープレ

そんな営業担当者が毎日行っているのが、「ロープレ」です。

これは、顧客との商談シミュレーションのことを指します。

キーエンスでは、10-15分ほどの時間でロープレを毎日行うそうです。

実際の営業ではデモ機を用いて説明を行うため、何回も練習することで体に染み付かせるのです。

外出報告書、SFAの活用

僕は、とくに「外出報告書(以下、外報)」についての話がとても衝撃でした。

外報は、商談の情報を書き込むレポートのことです。

商談前にどんな準備をしたのか、どこで誰と会ったのか、相手の反応はどうだったのかなど様々な情報を入力します。

なんと、これを商談から5分以内に入力するそうです。

時間が経てば経つほど主観が入りやすくなり、書くのが億劫になるからだと言います。

また、SFA(セールス・フォース・オートメーション)の活用も徹底しています。

外報の情報が連携されていることに加え、様々な顧客情報が蓄積されています。

キーエンスの販売促進部門はこの大量の情報と人工知能を使い、有力顧客の共通項を導き出しています。

営業担当者は、これらの情報を活用して、営業を行うのです。

大量の情報を入手できるのも、直接販売の強みでしょう。

潜在ニーズを聞き出す取材力

たくさんの商品を扱うキーエンス。

その7割が世界初、業界初だそうです。

それを可能にしているのも、顧客の潜在ニーズを把握できているからでしょう。

顧客の「なになにがほしー」を鵜呑みにせず、その理由を探ります。

そうすることで、一歩踏み込んだ提案ができるのです。

部分最適な提案ではなく、全体最適の提案です。

僕は就職活動をしていて、先日「オービック」という会社の説明会に参加しました。

そこでも、同じことを聞きました。

オービックはSIer企業なのですが、顧客企業の経営層にアプローチするそうです。

まさに、全体最適の提案です。

テリトリー制

営業に関する最後の特徴は、「テリトリー制」です。

キーエンスには、9つの事業部があります。

  • センサ事業部
  • 制御システム事業部
  • アプリセンサ事業部
  • 精密測定事業部
  • マイクロスコープ事業部
  • メトロロジ事業部
  • 自動認識事業部
  • マーキング事業部
  • 画像システム事業部

これらの事業部に所属している人がチームを組んで1つの地区を担当するそうです。

加えて、ID制度という「ある事業部の担当者が違う事業部の人に顧客を紹介して成約すると『金一封』がもらえる」制度があるそうです。

縦割り打破の制度とも言えるでしょう。

組織のあり方を考える上で、とても参考になります。

商品部隊の特徴

粗利8割

キーエンスが新商品を開発する際に目安にしているのは、粗利8割だそうです。

これは、ちょっとびっくりです。

これを達成するためには、原価の削減と付加価値の向上が必要になります。

特に後者に力を入れているそうです。

加えて、企画をする際には積み上げ式で考えると言います。

以下は、ダメな例です。

「1000億円の市場があって、その3割を獲得する。」

そうではなく、積み上げ式で説明するそうです。

「2000のクライアントにヒアリングを行った結果、20%の顧客が購入してくれそうです。」

また、上乗せ粗利で計算するそうです。

特定の商品を導入することで、既存の商品の売り上げがいくら減るのか。

これも計算式に組み込んで粗利を計算するのです。

顧客指向型プロダクトアウトのパイオニア

まさに、「顧客の『欲しいもの』は作らない」だそうです。

営業部隊の特徴でも触れましたが、ニーズの裏のニーズを探る。

よって、顧客が言語化できていない悩みを解決する商品をつくるのです。

以前、『1%の努力』という本を紹介した際にも触れましたが、通常、仕事というのは「マーケット・イン」です。

社会で必要なものやサービスを提供することで、対価を得ることができます。

「プロダクト・アウト」で、自分のつくりたいものをつくっていては、なかなかお金になりません。

これらのことを踏まえると、キーエンスは「顧客指向型プロダクトアウト」と表せるのです。

本書の中では、蛍光顕微鏡のエピソードとともに、「顧客指向型プロダクトアウトのパイオニア」と紹介されていました。

企画立案部門

開発する商品の約7割が世界初・業界初である裏には、企画立案部門の活躍があります。

この部門は、営業部門と開発部門をつなぐ場所です。

ここで僕が印象に残ったのは、「引き算の発想」です。

この発想の例とては、フィンランドのエレベータが挙げられます。

閉じるボタンがないそうです。

https://twitter.com/naokikgym/status/1655125906204028928?s=20

キーエンスは必要なものは何かを考えるのと同時に、不必要なものも考える「引き算の発想」を取り入れています。

なんでもできるチャンピオンスペックではなく、顧客が必要としている課題を簡単に解決できるものを提供するのです。

これが、コストダウンを実現させ、粗利8割を達成できる秘訣なのかもしれません。

即納

直接販売に並ぶ大きな特徴のもう一つは、即納です。

これを実現するためには、大量の在庫を抱え込まないといけません。

売れ残った在庫は、利益の減少を招きます。

即納を可能にしているポイントは3つあります。

  1. 在庫管理のプロフェッショナルがいること。
  2. サプライヤーから材料を1年分保障して買い付けたりしていること。
  3. 仕入れから決済までの仕入債務回転日数が43.3日なのに対し、販売から代金回収までの売上債権回転日数が169.1日であること。
  4. サプライヤーへの支払いも手形ではなく、現金で。

2、3、4番をすることで、有事の際にもサプライヤーから優先的に仕入れることができているのかもしれません。

生産工場を持たないファブレス経営

メーカーの中でも、自社の生産工場を持たない経営をしていることを「ファブレス経営」と言います。

米アップルなどが有名です。

キーエンスは、製品の製造を協力会社に依頼するファブレス経営ですが、少し事情が違います。

キーエンスエンジニアリングという子会社を持っているのです。

商品の1割を子会社で製造し、それ以外を協力会社に委託しています。

この子会社が監視の目として機能しているそうです。

高い生産性を可能にする社内制度

評価(アクション、成果、360度)

平均年収も高く、仕事の成果が給与に大きく影響しているのかと思いきやそうではありませんでした。

アクション50%、成果50%なのです。

営業であれば、電話件数や商談でデモを行った回数などがKPI(重要業績評価指数)として記録されます。

商品部隊であれば、顧客へのヒアリング件数などが評価されます。

今となっては増えてきましたが、360度評価も早い段階から取り入れていたそうです。

これによって、マネージャーは自分の評価を知ることができ、今後につなげることができます。

時間チャージ

年間の利益を全社員の労働時間で割ると、一人あたり平均で一時間あたりいくらの粗利を産んだのかを出すことができます。

これを「時間チャージ」と呼んでいるそうです。

時間チャージが低い仕事は外注した方が良いです。

外注するか自分でやるかの判断材料にもなります。

社内監査

データをもとに施策を打っていくため、情報に嘘があると致命傷になります。

そこで、社内監査が活躍するそうです。

これは、人間は弱いものだという「性弱説」に基づいているそうです。

「性弱説」に基づいて仕組みを整備しているところがキーエンスの特徴なのかもしれません。

営業利益の一定の割合を賞与として社員に還元する制度

この制度があるからこそ、従業員一人一人が経営者の目線になって仕事をすることができるのでしょう。

補足

時間チャージにもあるように、キーエンスの社員は「目標意識、目的意識、問題意識」を持つように徹底しているそうです。

自分の行動が目的に合っているかを常に問い続ける姿勢は何においても必要です。

プロ野球選手である山岡泰輔選手は、同じようなことを語っています。

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僕自身も「目的意識」を常に意識していきたいです。

おわりに

キーエンスは、日本経済を復活する鍵が隠されている企業でした。

自分自身の生産性を高めるための参考になったことでしょう。

就職活動中の方のみならず、企業の経営者の方にこそ呼んでもらいたい一冊でした。

【著作権者(著者、訳者、出版社)の方へ】

当記事では、本が好きという方に対して面白い本を紹介することを目的としています。

書籍上の表現をそのまま使うのではなく、自分の言葉で描き直すように心がけています。

また、本に対してネガティブな印象を与えないことはもちろん、ポジティブな印象を与えられるように記事を執筆しています。

しかし、万が一行き届かない点があり、記事の削除を望む所有者様がいましたら、お手数ですが、

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までご連絡いただけますと幸いです。

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