はじめに
今回紹介する本は、井上智洋さんの著書『「現金給付」の経済学』となります。
僕はちょうどベーシックインカムについて調べていたところ、YouTube大学でお馴染みの中田敦彦さんが今本を紹介していたので、amazonで即購入しました。
この本はみんなの生活を豊かにするためのビジネス本や自己啓発本とは少し違います。
マクロの視点で現行の社会保障制度の問題点を捉え、それらを踏まえた政策提言の本に近いと感じました。
社会保障や経済の話なので少し難しいかもしれませんが、自分なりに整理して紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
ベーシックインカムについて知りたいという方にオススメです。
それでは以下のポイントに分けて紹介していきます。
- 今の社会保障制度の現状
- ベーシックインカムについて
- 財源はどうするの?
- 今の社会保障制度は無くなるの?
- まとめ
※本の要約ではなく、僕が吸収したことのアウトプットです。多少内容が異なっている部分や僕の意見が混ざっています。記事の削除を希望される著作権者の方は、お問い合わせフォームよりお知らせください。即刻、削除いたします。
今の社会保障制度の現状
まず最初に、日本の社会保障制度についてみていきましょう。
自助・共助・公助
今の日本の社会保障制度は「自助・共助・公助」の原則に基づいています。
まずは自分で頑張る。自分の身は自分で守る。
保険など。家族や地域住民などで助け合うという意味でも使われる。
行政が提供するサービス。社会保障制度(生活保護など)。
今の資本主義社会の日本では、このような原則に基づいて社会が成り立っていました。
メリット
日本の所得分布が以下の図のようになっているのであれば、この原則に基づいた社会保障制度はとても合理的であると言えるでしょう。
デメリット
しかし、IT技術の発展などでAIが人の仕事にとってかわるようになったり、新型コロナウイルスの影響で貧困が進むと以下のような所得分布になっていくそうです。
つまり、貧困者が増えてしまい、公助である生活保護制度がうまく機能しなくなる可能性があるのです。
保険が良い例でしょう。
保険というのはみんなで、お金を出し合って万が一に備えるというものです。
万が一の人が多ければ、保険は成り立ちません。
(保険については、『お金の大学』という書籍がおすすめです。)
そのため、社会保障制度を見直す必要があると著者は考えているのです。
また、生活保護にも以下のような問題点がありあます。
- 選別主義的
- 貧困の罠に陥る
- 不公平の崖が存在する
選別主義的というのは、満遍なく人を助けるのではなく、助ける対象をを決めてピンポイントで支援をするということです。
雑に言えば、人が助ける人と助けない人を決めているということです。
生活保護制度には不正受給の問題や本来必要な方達に支援が行われていないという問題などがあります。
貧困の罠というのは、なかなか貧困から抜け出せないということです。
なぜなら、お金を支給されている人は働いた分だけ支給される金額を減らされてしまうからです。
そして不公平の崖も存在します。
たとえば、所得が100万円以下の人にお金を支給するとすると、所得が100万1円の人はお金をもらえません。
このように、崖が存在するのです。
ベーシックインカムについて
そんな状況で登場したのが、ベーシックインカムという考え方です。
Wikipediaによると、ベーシックインカムの定義は以下のように書かれています。
国民一人一人に無条件かつ定額で現金を給付するという政策
背景
最近、日本でベーシックインカムについての議論が白熱してきた背景には、イギリスのジョンソン首相やローマ教皇の発言も影響しているでしょう。
また、東洋大学教授でパソナグループ会長の竹中平蔵さんが「月7万円の支給」を提案し、炎上しました。
メリット
このベーシックインカムのメリットはなんでしょうか。
以下のようなものがあります。
- 貧困問題を解消できる
- 今の社会保障制度のデメリットを解消できる
- 需要を喚起することができ、経済が活性化する
- シモンさんの言っていたこと
もちろん、給付される金額によって生活できるかどうかはわかりません。
しかし、今の社会保障制度の一部を組み合わせることで今よりも多くの貧困者が助かるのだと著者は主張しているのです。
ベーシックインカムは、一律給付であるので、給付されるお金以外に働くことによってお金を増やすことができます。
働けば働くほど、自分のお金が増えるのです。
つまり、貧困の罠に陥ることにはならないのです。
そして、全員に支給するので選別主義的ではありません。
不公平の崖も存在しないのです。
また、需要を喚起することも期待できます。
これについては、次の章で詳しく紹介します。
ちなみに、以前紹介した『僕に居場所をくれたスケートボードが、これからの世界のためにできること。』という本の著者のシモンさんもベーシックインカムのメリットとデメリットについて整理していました。
この制度は一律に国民全員に現金を給付するため、貧困を解消することが期待できます。
デメリット
ベーシックインカムという制度は多くのメリットがありますが、デメリットもあります。
たとえば、以下のようなものです。
- 高所得者はますます富む?
- 社会保障制度の抜本的改革となるので、たくさんの議論が必要
- 財源の問題を考えないといけない
- 働く意欲はどうするの?
一律に現金を全国民に給付をするので、貧困者は救われますが、高所得者はますます富むことになります。
そこで、著者は資産課税を提案しています。
持っている資産に対して課税することで、所得を再配分することができるのです。
しかし、これには高所得者が容認するかが最大の問題です。
また、ベーシックインカムを導入するということは今の「自助・共助・公助」の原則を変更することになります。
つまり、「公助」を先に出すことになるのです。
大きな改革になるので、様々な問題が生じます。
年金制度などと折り合いをつけていかなければなりません。
また、今の社会保障制度や財源はどうするかを考えないといけないのです。
これらについても後の章で紹介します。
ここまでを整理すると、ベーシックインカムの制度はとてもいいように聞こえます。
そこで、僕は母親にベーシックインカムについてアウトプットをしました。
すると、母親は様々な問題点を指摘し、僕は本に書いてあったことで反論するという白熱した議論が巻き起こったのです。
母親とそんな会話をしたことがなかったので、とても新鮮でした。
母親が指摘した問題の一つに、働く意欲が無くなるのではないか?というものがありました。
この問いについては僕は答えられませんでした。
しかし、この本を最後まで読むとこの問いに少しは反論できるようになります。
まとめの章で紹介します。
財源はどうするの?
これまで紹介したように、ベーシクインカムいはさまざまな良い点がありますが、問題点もあります。
おそらく最大の問題が財源についてでしょう。
その前に、基礎的な用語の解説を行います。
インフレとデフレ
お金が多い状態。物の値段が上がり、お金の価値が下がる。お金じゃぶじゃぶ状態。
お金が少ない状態。物の値段が下がり、お金の価値が上がる。お金が足りないよー状態。
需要と供給
経済学の用語
サービスや商品を欲すること。需要があるというのは、人気があるということ。需要が多いと物の値段が高くなるので、インフレになる。
サービスや商品を提供すること。供給が需要より多いと、物の値段が下がる。つまり、デフレ状態にする。
お金を刷ることができる
それでは、どのように財源を確保するのかを紹介します。
僕たちはお金が足りなくなったら、お金を調達する方法は2つしかありません。
- お金を稼ぐ
- どこからかお金を借りてくる(借金をする)
しかし、政府はどうでしょうか。
- お金を稼ぐ(税金を取る)
- 借金をする(国債を発行する)
- 自分でお金をつくる
ポイントは3番です。
厳密には違うかもしれませんが、政府は自らお金をつくりだすことができます。
これは自国通過を持っている国でしかできません。
例えば、財政破綻の危機にあるギリシャはユーロを使っているので、自分でユーロを発行することはできないのです。
財政が危機的状況にあった、北海道の夕張市や大阪府も同じです。
自らお金をつくることができないので、財政が悪化したら節約などをして財政を立て直さなければなりません。
MMT(現代貨幣理論)
実際に、これについては難しすぎて僕はよくわかりませんでした。
経済学の中の考え方の一つだと思っておけば良いでしょう。
簡単にまとめると、経済学の立場は3つに分類できます。
- 財政は常に収支をゼロか黒字にしないとだめ
- 景気が悪いときは借金おけ。景気が良い時に立て直す。
- 均衡財政を達成する必要がない
MMTを主張する人たちは3番を主張しているそうです。
この本の著者も、3番の意見は納得できるとしています。
(※この本の著者はMMTの主張の一部には賛成していますが、全てに賛成しているわけではないそうです。)
つまり、お金をどんどん刷ることで財政問題を解決できると主張しているのです。
ただし、お金を刷るとどうなるでしょうか。
先ほど紹介した「インフレ」状態になります。
お金がじゃぶじゃぶになってしまし、物の値段が上がってしまいます。
しかし、今の日本は長期間デフレ状態にあります。
ならば、インフレ率が2%ぐらいまでならお金をつくれるというのです。
難しい言葉で著者の主張をまとめると、「自国通過を持つ国がマネタイゼーションを行う限りは、気にしなければならないのはインフレだけ」となります。
インフレをどうやって抑えるの?
お金をどんどんつくるのであるならば、インフレに気をつけなければなりません。
この本の著者がインフレを抑えるブレーキとして、税金と金利があると主張します。
インフレ率が上がれば、給付する金額を減らしてお金を作る量を減らし(最悪ゼロにして)、税金を増やせばいいそうです。
また、金利をあげて景気の熱を覚ますそうです。
『異端のすすめ』、『交渉力』の著者である橋下さんはわかりやすく解説してくれています。
そして、本当に税金と金利の引き上げでインフレを抑えることが出来るのか、他にブレーキがあるのかということ提起してくれています。
そして、本当に税金と金利の引き上げでインフレを抑えることが出来るのか、他にブレーキがあるのかということ提起してくれています。
本当にお金刷りまくれるの?ということは高橋洋一さんが動画でコメントしています。
今の社会保障制度は無くなるの?
財源問題の次に沸き起こる疑問が「今の社会保障制度は無くなるの?」ということでしょう。
今の社会保障をめぐる3つの立場
著者によると、今の社会保障制度の存続について3つの立場があるそうです。
- 今の社会保障をやめて、ベーシックインカムに切り替える
- 今の社会保障の一部を残す
- 今の社会保障を全て残す
著者は2番の立場だそうです。
つまり、ベーシックインカムを行い、それでも支援が必要な人はピンポイントで狙い撃ちをするということです。
実現までの具体案
これは本当に難しかったです。
まずは用語解説です。
金額が固定されているもの。
インフレ率によって支給金額が変動するもの。
これを踏まえて、著者がベーシックインカムを導入するための3ステップを主張しています。
- 国債を財源とした追加型の固定ベーシックインカム(3万円から7万円に上げていくことが目標)。万が一インフレが上昇しすぎた場合は増税か金利を引き上げる。
- 固定ベーシックインカムの財源を税金に切り替える。これをするためには増税が必要になる。しかし、増税するとデフレになるので、その分変動ベーシックインカムで給付を増やす。
- 理想系の完成。今の社会保障制度の何を残すか議論をする。
- 国債を財源とした追加型の固定ベーシックインカム(3万円から7万円に上げていくことが目標)。万が一インフレが上昇しすぎた場合は増税か金利を引き上げる。
- 固定ベーシックインカムの財源を税金に切り替える。これをするためには増税が必要になる。しかし、増税するとデフレなるので、その分変動ベーシックインカムで給付を増やす。
- 理想形の完成。今の社会保障制度の何を残すのか議論をする。
他のYouTubeを見て僕が感じたこと
著者が主張する制度はとても良い点が多いことがわかりました。
しかし、実際に導入するのはとても労力がかかるなと感じます。
年金の問題を解消しなければなりませんし、既得権益を持った方達との戦いになります。
まとめ
ベーシックインカムの可能性
以上のように、ベーシクインカムには貧困の解消などさまざまな利点があります。
もうひとつ利点を付け加えると、環境問題の解消です。
炭素税とベーシックインカムを導入することで、CO2削減と経済成長を両立できるというのです。
炭素税を導入することでCO2削減になりますが、おそらく需要が落ち込むでしょう。
そこで、ベーシックインカムを導入するのです。
現金を給付することで、需要が増加します。
CO2を排出する工業製品などの消費は落ちるかもしれませんが、サービス業などの消費が増大すると著者は予測しています。
つまり、経済全体で見ると活性化するのです。
働く意欲は?
ここまで読んで、筆者の立場に立ってこの問いに反論できるようになりました。
現金給付をすることによって、働く意欲がなくなったとする。
すると、供給が低くなり需要が高くなる。
つまり、インフレになる。
もし、そうなったらお金を作るのをやめて、変動ベーシクインカムの量を減らす。
増税や金利の引き上げなどを使って、過度のインフレを抑えていく。
となります。
おわりに
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回の内容はとても難しく、センセーショナルな内容となってしまいました。
とても賛否が分かれると思います。
できるだけ考え方が偏らないように意識しましたが、十分偏った考え方の紹介になってしまったでしょう。
何か意見があれば、コメント欄に書いてくださるとありがたいです。
僕自身の勉強にもなります。
【著作権者(著者、訳者、出版社)の方へ】
当記事では、本が好きという方に対して面白い本を紹介することを目的としています。
書籍上の表現をそのまま使うのではなく、自分の言葉で描き直すように心がけています。
また、本に対してネガティブな印象を与えないことはもちろん、ポジティブな印象を与えられるように記事を執筆しています。
しかし、万が一行き届かない点があり、記事の削除を望む所有者様がいましたら、お手数ですが、
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・メール:
all.roads.lead.to.rome.shin@gmail.com
までご連絡いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします。
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